
学名は、生き物を世界共通で識別するために使われる名前です。
普段は「イヌ」「ネコ」「
ゴリラ」と呼んでいる動物も、学名で見てみると、
- 同じ言葉が2回も3回も続いている
- 動物の特徴がそのまま名前になっている
- 意外な意味が隠れている
など、思わず誰かに話したくなる名前がたくさんあります。
たとえば有名なのが、ゴリラの「Gorilla gorilla」。さらに西ローランドゴリラには「Gorilla gorilla gorilla」という名前が使われてきました。
「ゴリラって本当にゴリラ・ゴリラ・ゴリラなの?」
と思ってしまいますよね。
今回は、そんな学名が面白い動物を中心に、犬や猫、パンダ、チンパンジーなど身近な動物の学名から、同じ単語を繰り返す不思議な学名まで紹介します。
動物の学名とは?正式名称との違い
「動物の正式名称は学名」と表現されることがありますが、より正確には、学名は生物を科学的に識別するための世界共通の名称です。
「犬」「dog」「Hund」のように、同じ動物でも普段使われる名前は言語によって変わります。
一方、学名には国際的な命名ルールがあります。そのため、異なる国の研究者同士でも、どの生物について話しているのかを正確に伝えやすくなります。
学名は世界共通で使われる名前
私たちが普段使う「イヌ」「ネコ」「キツネ」といった名前は和名です。
これに対し、学術的な場面では、
- イヌ:Canis familiaris など
- ネコ:Felis catus
- ヒト:Homo sapiens
といった学名が使われます。
ただし、生物の分類は研究によって変更されることがあります。そのため、古い図鑑と新しいデータベースで学名の扱いが違うこともあります。
「一度決まった名前が永遠に変わらない」というわけではないところも、学名の面白いところです。
学名の基本「二名法」とは?
動物の種の学名は、基本的に「属名+種小名」という2つの名前を組み合わせます。
たとえば人間の学名「Homo sapiens」なら、
- Homo=属名
- sapiens=種小名
です。
このような仕組みを二名法といいます。
属名・種小名・亜種名の違い
学名を見ていると、2語ではなく3語並んでいるものがあります。
これは主に亜種を表す場合です。
たとえば、
Gorilla gorilla gorilla
のような形です。
基本的には、
- 1語目:属名
- 2語目:種小名
- 3語目:亜種名
という構造になります。
つまり「ゴリラ」という言葉を面白がって3回並べたわけではなく、分類の結果として同じ語が3回続いているのです。
なぜ学名にはラテン語が使われるの?
「学名=ラテン語」と覚えている方も多いかもしれません。
実際には、学名にはラテン語そのものだけでなく、ギリシャ語、人名、地名、現地語などをもとにしてラテン語化された名前も使われます。
動物の学名ではラテンアルファベットを用い、国際的に共通して扱えるよう命名規則が整えられています。
そのため学名を見ると、普段の名前からは想像できない語が並んでいることがあるのです。
学名が面白い動物一覧
ここからは、身近な動物を中心に面白い学名を見ていきましょう。
イヌの学名「Canis familiaris」
イヌの学名は分類の考え方によって表記が異なることがあります。
現在のMammal Diversity Databaseでは、Canis familiaris がイヌの学名として採用されています。
一方、Canis lupus familiaris という表記も広く知られています。これはイヌをオオカミ Canis lupus の亜種・家畜型として扱う考え方によるものです。
つまり、チワワも秋田犬もゴールデンレトリバーも、犬種ごとに別々の学名を持っているわけではありません。
見た目は驚くほど違いますが、同じイヌです。
ネコの学名「Felis catus」

イエネコの学名は、Felis catus です。
以前は「Felis silvestris catus」という表記も広く使われてきましたが、現在のMammal Diversity Databaseでは Felis catus が採用されています。
また、イエネコはリビアヤマネコ Felis lybica を起源とする家畜化された系統として扱われています。
普段は当たり前のように「ネコ」と呼んでいますが、世界の研究者が同じ動物を指すときには Felis catus という名前で通じるわけです。
ゴリラの学名「Gorilla gorilla」
西ゴリラの学名は、Gorilla gorilla です。
属名もGorilla、種小名もgorilla。
日本語感覚では「ゴリラ・ゴリラ」となるため、非常にインパクトがあります。
さらに有名なのが、Gorilla gorilla gorilla です。
これは西ローランドゴリラに用いられてきた三名法の名前です。
ただし、生物分類は研究によって更新されます。現在のMammal Diversity Databaseでは西ゴリラ Gorilla gorilla を種として認める一方、Gorilla gorilla gorilla は過去に使われた名前の組み合わせとして掲載されています。
つまり「ゴリラの本当の名前は全部ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ」というより、「ゴリラの仲間の分類で、実際にGorilla gorilla gorillaという名前が使われてきた」と理解するのが正確です。
パンダの学名「Ailuropoda melanoleuca」
ジャイアントパンダの学名は、Ailuropoda melanoleuca です。
白と黒の見た目が特徴的なジャイアントパンダですが、学名の「melanoleuca」も黒と白を連想させる語から作られています。
普段聞く「パンダ」とはまったく違う響きなので、学名を初めて見ると別の動物のように感じるかもしれません。
なお、「パンダ」という呼び名はジャイアントパンダだけのものではなく、レッサーパンダにも使われています。
同じ「パンダ」という名前でも、生物学的にはかなり異なる動物です。
ニワトリの学名「Gallus gallus domesticus」
ニワトリでは、Gallus gallus domesticus という学名がよく使われます。
ここでも「Gallus」が2回続いています。
さらに「domesticus」は家畜化に関係する意味を持つ語です。
毎日のように卵や食品として目にしているニワトリですが、学名にすると一気に強そうな響きになるのも面白いところです。
サルには1つだけの学名があるわけではない
元の記事ではサルの学名として、Macaca mulatta を紹介していました。
しかし、厳密には「サル」という動物1種がいるわけではありません。
Macaca mulatta はアカゲザルの学名です。
ニホンザル、アカゲザル、テナガザルなど、それぞれ別の種類なので学名も異なります。
「サルの正式名称はMacaca mulatta」という意味ではない点には注意しましょう。
チンパンジーの学名「Pan troglodytes」
チンパンジーの学名は、Pan troglodytes です。
「Pan」はギリシャ神話に登場する牧神パンと同じ綴りです。
また「troglodytes」は「洞穴に住む者」に関係する語として知られています。
もちろん、現代のチンパンジーが洞窟暮らしをする動物だからこの名前になっている、という意味ではありません。
昔の動物に対する認識や命名の歴史が残っている例として見ると面白い学名です。
ヒトの学名「Homo sapiens」
私たち人間にも学名があります。
それが、Homo sapiens です。
Homoは「ヒト」、sapiensは「賢い」「知恵のある」といった意味につながる語です。
以前は「Homo sapiens sapiens」という三名表記を目にすることも多くありましたが、現在のMammal Diversity Databaseでは現生人類の種として Homo sapiens を採用しています。
自分たち人間にも、犬や猫と同じように学名が付いていると考えると少し不思議ですね。
名前の意味まで面白い動物の学名
学名の面白さは、響きだけではありません。
名前の由来や意味を調べると、その動物の特徴や発見された地域が見えてくることがあります。
ナマケモノの学名「Bradypus variegatus」
ミユビナマケモノの仲間の一種、ノドチャミユビナマケモノの学名は、Bradypus variegatus です。
属名のBradypusはギリシャ語に由来し、「遅い」と「足」に関係する語から作られています。
のんびり動くナマケモノらしさが、そのまま学名に表れているようで面白い名前です。
ただし、すべてのナマケモノが Bradypus variegatus というわけではありません。
ナマケモノにも複数の種類があります。
カンガルーの学名「Macropus giganteus」
オオカンガルーとも呼ばれるイースタングレーカンガルーの学名は、Macropus giganteus です。
Macropusは「大きな足」を連想させる語から成り、長く発達した後ろ足を持つカンガルーにぴったりです。
カンガルーの姿を知らなくても、学名から体の特徴が想像できる例といえます。
ハリネズミの学名「Erinaceus europaeus」
ヨーロッパハリネズミの学名は、Erinaceus europaeus です。
「europaeus」はヨーロッパに関係する名前で、その分布地域を連想させます。
注意したいのは、「ハリネズミ」という動物すべての学名が Erinaceus europaeus なのではないことです。
ペットとして知られているハリネズミなどには別の種類も存在します。
シベリアシマリスの学名「Eutamias sibiricus」
シベリアシマリスの学名は、Eutamias sibiricus です。
以前は Tamias sibiricus と表記されることもありましたが、現在のMammal Diversity Databaseでは Eutamias sibiricus とされています。
ここからも分かるように、学名は分類研究の進展によって変わる場合があります。
古い本と新しいウェブサイトで違う名前を見つけても、どちらかが単純に間違っているとは限りません。
「ゴリラ・ゴリラ」のように同じ言葉を繰り返す学名
学名の中でも特に目を引くのが、Gorilla gorilla や Vulpes vulpes のように、属名と種小名が同じものです。
このように属名と種小名が同じ形になる名前は、一般に「トートニム(tautonym)」と呼ばれます。
動物の命名では実際にこうした名前が存在します。
| 動物 | 学名 | 特徴 |
|---|---|---|
| 西ゴリラ | Gorilla gorilla | Gorillaが2回続く |
| ユーラシアカワウソ | Lutra lutra | Lutraが2回続く |
| ヨーロッパアナグマ | Meles meles | Melesが2回続く |
| アカギツネ | Vulpes vulpes | Vulpesが2回続く |
| ヨーロッパカメレオン | Chamaeleo chamaeleon | ほぼ同じ語が続く |
ゴリラ「Gorilla gorilla」
西ゴリラは、Gorilla gorilla です。
日本語で読むとそのまま「ゴリラ・ゴリラ」。
面白い学名として有名になるのも納得です。
カワウソ「Lutra lutra」
ユーラシアカワウソには、Lutra lutra という学名があります。
Lutraがそのまま2回続くため、これも非常に覚えやすい学名です。
ただし「カワウソ」という総称には複数の種が含まれるので、すべてのカワウソが Lutra lutra というわけではありません。
アナグマ「Meles meles」
ヨーロッパアナグマの学名は、Meles meles です。
こちらも属名と種小名がまったく同じです。
「メレス・メレス」と声に出してみると、呪文のようにも聞こえます。
アカギツネ「Vulpes vulpes」
アカギツネの学名は、Vulpes vulpes です。
Vulpesはラテン語でキツネを意味する語です。
つまり、キツネを表す属名がそのまま種小名にも使われている例です。
日本にもアカギツネの仲間が分布しているため、意外と身近な「繰り返し学名」といえます。
カメレオン「Chamaeleo chamaeleon」
ヨーロッパカメレオンなどと呼ばれる種には、Chamaeleo chamaeleon という学名があります。
こちらも見事に同じ言葉が2回並んでいます。
ゴリラ、アナグマ、キツネ、カメレオンと並べてみると、同じ名前を繰り返す学名は意外に珍しくないことが分かります。
学名は誰がどうやって決める?
「こんな変わった名前を誰が決めているの?」と疑問に思った人もいるでしょう。
学名は、好き勝手に付ければ認められるわけではありません。
新しい動物種を記載する場合には、その特徴を明らかにし、学術的に公表し、国際的な命名規約に沿って名前を付ける必要があります。
新種を発見した研究者が名前を付けることがある
まだ科学的に記載されていない動物が研究され、新種として発表されるときには、新しい学名が提案されます。
その際には、その生物を特定する基準となる「タイプ標本」なども重要になります。
つまり学名は、単なるニックネームではなく、「この名前はこの生物を指します」と科学的に共有するための仕組みなのです。
人名や地名が学名になることもある
学名は必ずしも動物の特徴だけから作られるわけではありません。
発見された場所にちなんだ名前や、人を記念した名前が付けられることもあります。
「この単語はどういう意味だろう?」と語源を調べてみると、動物そのものだけでなく、発見や研究の歴史まで見えてきます。
有名人にちなんだ学名も存在する
研究者だけでなく、著名人への敬意を込めて学名が付けられるケースもあります。
動物そのものとは直接関係のない人物の名前が残ることもあるため、学名の世界は想像以上に自由でユニークです。
動物の学名を書くときのルール
学名には書き方にもルールがあります。
覚えておくと、図鑑や動物園の解説を読むときにも役立ちます。
属名の頭文字は大文字
たとえばヒトなら、Homo sapiens です。
最初のHは大文字になります。
属名は大文字で始めるというルールがあります。
種小名は小文字
2語目のsapiensは小文字で始めます。
そのため、「Homo Sapiens」ではなく、Homo sapiens と書くのが基本です。
属名は大文字、種小名は小文字と覚えると分かりやすいでしょう。
基本的にはイタリック体で表記する
正式な表記では、
- Homo sapiens
- Felis catus
- Gorilla gorilla
のように、属名と種小名をイタリック体にするのが一般的です。
日本語ではカタカナで紹介されることもある
一般向けの記事やテレビ番組では、「ホモ・サピエンス」「ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ」のようにカタカナで紹介されることがあります。
意味を伝えるには分かりやすいのですが、本来の学名を確認したい場合はアルファベット表記も一緒に見るのがおすすめです。
動物の学名に関するよくある疑問
動物の学名は正式名称なの?
「正式名称」という言葉を日常的な意味で使うなら、学名を動物の正式名称と紹介するケースはあります。
ただし、より正確には科学的に生物を識別するための名称です。
普段使う「イヌ」「犬」「dog」は一般名・和名などであり、学名とは役割が異なります。
「本当の名前が別に隠されている」というより、「日常で使う名前とは別に、科学の世界で共通して使う名前がある」と考えると分かりやすいでしょう。
同じ動物でも学名が変わることはある?
あります。
生物同士の関係について研究が進むと、属が変更されたり、別種と考えられていたものがまとめられたり、逆に1種だったものが複数種に分けられたりすることがあります。
シベリアシマリスが Tamias sibiricus から Eutamias sibiricus へ移された例も、その一つです。
そのため、学名について調べるときは情報がいつのものなのかも確認すると安心です。
犬種ごとに学名は違う?
基本的に、チワワ、柴犬、秋田犬、ゴールデンレトリバーといった犬種ごとに別の種としての学名が付いているわけではありません。
見た目や大きさは大きく異なりますが、すべてイヌの品種です。
ゴリラの正式名称は本当に「ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ」?
半分正解で、半分誤解です。
西ゴリラという種の学名は、Gorilla gorilla です。
そして西ローランドゴリラには、Gorilla gorilla gorilla という三名法の名前が使われてきました。
ただし、ゴリラ全体の学名が「Gorilla gorilla gorilla」というわけではありません。
さらに分類体系は更新されるため、現在のデータベースではこの三名表記の扱いが変わっている場合もあります。
「ゴリラの正式名称はゴリラ・ゴリラ・ゴリラ!」とだけ覚えるより、「西ローランドゴリラにGorilla gorilla gorillaという学名が使われてきた」と覚えておくほうが正確です。
まとめ|動物の学名を知ると名前の由来まで楽しめる
動物の学名を調べてみると、普段使っている名前とはまったく違う世界が見えてきます。
イヌやネコのように身近な動物にも科学的な名前があり、ゴリラの Gorilla gorilla やアカギツネの Vulpes vulpes のように、同じ単語が繰り返される面白い学名もあります。
そして学名は単なる難しい外国語ではありません。
動物の特徴、分布、分類、命名された時代の考え方などが隠れていることがあります。
また、生物の分類は研究とともに変化するため、昔使われていた学名と現在使われている学名が異なることもあります。
動物園や図鑑で動物を見るときは、ぜひ日本語の名前だけでなく学名にも注目してみてください。
今まで何気なく見ていた動物から、意外な発見があるかもしれません。

